SRE としてのキャリアパスを考える
長らく、明確なキャリアパスというものを描かずに10年近くやってきているのだが、ふと「きちんとキャリアパスを作るべきなのではないか?」という考えに至り、ここ半月ほどいろいろと考えていた。
キャリアパスの必要性
キャリアパスの必要性を感じたきっかけとしては2つある。
- チームリーダーになった
- ストレスチェックで、キャリアパスを描くことを推奨された
1点目がもっとも直接的な動機であって、チームリーダーという立場になった。マネジメントというほど大仰なものを担っているわけでもないのだが、チームのディレクションなどが必要な立場と言える。するとチームをどうしたいのか?という命題を考える必要が出てきて、そもそもじゃあ自分は今後どうしたいのか?ということも考える必要があるんじゃないかと考えた、という具合。
2点目、会社で受けるストレスチェックというものがあると思うが、あの中で自己肯定感の低さによりストレスを受けている状態にあると診断された。自己肯定感が低いこと自体はもとより自覚はしているのだが、対策として「キャリアパスを作る」ことが挙げられていたのが目を引いた。キャリアパスと自己肯定感がどう結びつくのかいまいちわからなかったのだが、目標を明確化して、そのプロセスを辿っていることを自覚することにより、自己肯定感を高めることができるらしい。「技術書典6」で購入した『理論と事例でわかる自己肯定感』という本にも言及があった。確かに、今学んでいることや、今の業務が、自分にとって長期的に重要なことなのかどうか、思い悩むことが多く、自分の成果に自信を持てないことは少なくなかった。
「これでよい」気持ちは、結果よりもプロセスを実感していることが影響します。例えば、将来への目標を持っていると感じること、成長への努力をしていると感じていること、といったことです。 1
という経緯があり、今までは技術的な興味と、実際の仕事を経て「解決したい」と考えた問題とをベースにキャリアを積んできたのだが、30歳も過ぎたことだし、キャリアパスを今一度考え直した。
キャリアパスの描き方
ソフトウェアエンジニア向けのキャリアに関する本を何冊か読んではみたのだが、正直キャリアパスはこう作ろう!みたいな本はあんまり見つからなかった。ベストセラー『SOFT SKILL』では「自分のキャリアから何を手に入れたいのか。5〜10年後の自分をどうしたいのか。少し時間をかけて、そのことについて考えてみよう」2という記述にとどまり、それをどう描いていくか詳しくは言及がない。他の本などでも、だいたいは「5年後どうなりたいのか考えてみましょう」みたいな内容で、「いや、特にないんですけど」という人に対する処方箋は乏しい。
この観点で最も参考になったのが キャリアに関するセルフコーチングのやり方|こばかな|note というエントリー。詳細はリンク先を読んでもらいたいが、考え方の1つとして、「思いつく選択肢をとりあえずたくさんあげてみ」るというものがある。「5年後どうなりたいか」に答えにくいのは、これがオープンクエスチョンであるからであり、ではそもそもどんな選択肢があり得るのかをまず出してみることにより、この問いはクローズドクエスチョンに変化する。
また、選択肢を書き出すことによって、そもそも選択肢が少ない状態にあることにも気付ける。すると、まずは選択肢を増やそう、例えば世の中で自分の5歳ぐらい上のエンジニアで有名な方はどのようなキャリアを築いているのか調べてみよう、といった具体的行動に変化できる。
キャリアパス、キャリア戦略
もう1つ引きたい記事がある。
ここではキャリアパスではなく、「戦略」という言葉が使われている。パスを思い描くだけで完結せず、そのパスを実現するためにどういった能力を得て、どうやって戦うのかという「戦略」まで言及されている。
戦略と言うと、ルメルトの『良い戦略、悪い戦略』3という本が好きだ。この本は基本的には経営的な目線ではあるが、個人や小規模なチームの活動にも応用できる内容なので、非常におすすめしたい。ざっくり言ってしまうと、良い戦略は状況の「診断」、それに基づき「基本方針」の決定、基本方針を実行するための具体的な「行動」の3つから成るという内容で、状況をきちんと分析して重大な問題を見極めることと、そこにリソースを集中的に投下する重要性を説いている。
僕のキャリアパスに関する悩みの出発点は、自己肯定感の欠如だった。それを埋めるのに必要なのは、単なるキャリアパスというより、自身の行動が確固たる戦略に基づいているという確信なのではないかと、ここまで考えていて思い至った。まぁもちろん、キャリアパスを描くだけで満足して終わる、という人もいないだろうが、方向性を作った上で、戦略を描いてそれに取り組んでみて、初めて自分の目的は達成できそうだ。
『良い戦略、悪い戦略」では、戦略とは「仮説」であるとも書かれている。つまり、短期間でその有効性の検証と修正が必要ということだ。パスや戦略を描くのがゴールではなく、それが常に自分にとって意味のあるものになっていることを確認し直す作業も必要になる。
SRE のキャリアパスを考える
ソフトウェアエンジニアのキャリアには、スキル上の選択肢と、事業上の選択肢の2つがあると捉えている。技術 or マネジメントというような、よく言われる2択や、フロントをやめてバックエンドやります、みたいな話は前者だ。その技術を持ってどの会社にコミットしたいのか、というのが後者になる。
特にプログラマーであれば、開発したいプロダクトという事業の選択も描きやすいかもしれない。 SRE はプロダクトサイドからは少し離れる(という言い方は適切ではないかもしれないが)ことも多いので、こんなサービスを作りたい、という事業的なビジョンと職務が直結させづらいと感じることもある。ただ、金融業なのか、ゲーム関係なのかなど、携わる事業によって SRE が注力するべきポイントと、求められる信頼性は大きく変化するので、事業の選択肢もまったくの無関係ではない。僕は金融系の経験が長く、ミッションクリティカルなシステムの運用には長けているが、今後もそのキャリアを積みたいかと言えば No だったりする。
また事業領域という点では、サービス運営ではなく、プラットフォーム側、つまりはクラウドサービスや CDN などの中の人になる道も、インフラ系のエンジニアには存在する。この場合は SRE という肩書きではなくなるが、 SRE から選ぶ道としては現実的な線だろう(現に知人でも何人かいる)。
実際にキャリアパスと戦略を考えてみる
最後に、ここまで書いたことを受けて、自分でもろもろ実際考えてみたキャリアのことを書き連ねて終わりたい。正直なところ、まだまとまりきってはいないのが現状だ。
- 自分の価値観
- 自身の知識と技術を源泉として対価を得たい
- 労働時間や年齢などを根拠とした対価を得たくない
- 常に知的好奇心を満たしたい
- その時代にあった知識へ常にアップデートを続けていたい
- インターネットの自由を重要視したい
- 使い方を狭めたり、ユーザーの自由を奪ったりする方向へは進みたくない
- ユーザーがインターネットを通じて、情報を得られる、発信できる自由を尊重したい
- 自身の知識と技術を源泉として対価を得たい
- キャリアパスのスキル的な選択肢
- SRE としてスペシャリストになる
- SRE 方面の技術に長けた存在になる
- SRE のプラクティス実践に長けた存在になる
- エンジニアチームのマネジメントキャリアを進む
- プラットフォーム側のエンジニアになる
- AWS の中の人など
- 経験として興味はあるが、現在は SRE でプロダクトに責務を負うほうが関心が強い
- SRE 以外のエンジニアルートを進む
- 現状、 SRE でいることに不満などはなく、あまりこの道は考えていない
- 強いてあるとすれば、 SRE として必要なプログラミングスキルを磨くために、期限付きでサーバーサイド等をやる
- 現在大学進学しているので、その道を究めて研究職へ進む
- 現実的な道だとは捉えていない
- SRE としてスペシャリストになる
- 事業的な選択肢
- 文化、芸術、学術とインターネットを絡めた事業に携わっていたい
- 現在は教育関係のサービスに携わっており、マッチしている
- 「インターネットの自由」というキーワードを念頭に置きたい
- まだ深掘りができておらず、具体的にどういったサービスに今後携わりたいかは常に考えたい
- 文化、芸術、学術とインターネットを絡めた事業に携わっていたい
- 直近の方向性
- 35歳を1つの区切りとして捉えつつ、 SRE として高いレベルに達していたい
- 組織に SRE を導入し、立ち上げ、サイクルを回していく一連の過程を自分が再現できるようにしておきたい
- そのスキルをもって、やりたい事業があれば SRE として瞬時にコミットできる人材になりたい
- SRE のプラクティスを組織横断的に適用するためのヒューマンスキル
- インプットとアウトプットをより高いレベルで行っていきたい
- 英語の習得(英語が出来るだけで、アクセスできる情報量は格段に多くなるので、レバレッジが高い)
- プログラミングスキルの向上、それに伴い OSS への contribution
- OSS は「インターネットの自由」の1つでもあり、 contribution は常に続けたい
- 組織に SRE を導入し、立ち上げ、サイクルを回していく一連の過程を自分が再現できるようにしておきたい
- 35歳を1つの区切りとして捉えつつ、 SRE として高いレベルに達していたい
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川鯉光起, 尾澤愛実, 福本江梨菜, 納富隆浩, 浜崎誠, 小笠原晋也. 理論と事例でわかる自己肯定感. 第2版, 教育心理学を学ぶ会, 2019, p.8. ↩︎
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John Z,. Sonmez. SOFT SKILLS: The software developer's life manual. Manning Publications, 2015. (ジョン・ソンメス, 長岡高弘(訳). SOFT SKILLS ソフトウェア開発者の人生マニュアル. 日経BP社, 2016, 第3章.) ↩︎
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Richard P. Rumelt. GOOD STRATEGY, BAD STRATEGY: The difference and why it matters. Crown Business, 2011. (リチャード・P・ルメルト, 村井章子(訳). 良い戦略、悪い戦略. 日本経済新聞出版社, 2012, 410p.) ↩︎