社会人大学生1年目を終えて、大学生活と勉強法とその困難
昨年 パラレルワーカー兼大学生になることになった · the world as code で書いたように社会人大学生を始めたのだが、なんとか1年目を終えたので大学生活がどんな感じなのかとか、所感などを書いていく。
履修結果
19科目38単位を登録して、結果は以下のようになった。成績は S, A, B, C の4段階で評価されている。
- S評価 : 4科目8単位
- A評価 : 6科目12単位
- B評価 : 2科目4単位
- 単位未修得 : 7科目14単位
比較的成績は良かったのだと思うけれど、それ以上に目立つのが未修得の単位の多さである。これに関しては見積もりが甘かったとしか言いようがない。大学の単位を取るのは自分が思っていたより大変だった。この点はあとで詳述する。
ところでこのように書くと14単位も「落とした」ように見受けられそうだが、実際には不合格になったわけではなくて試験すら受けていない。何が違うのかと言うと、通信課程においては(通常課程がどうなのかは知らないが)登録した単位は2年間履修可能であるため、来年度に試験を受けて修得ができる。つまりまだ「落とした」というわけではない。ここ重要。
卒業必要単位が124単位、10年前に卒業した大学の単位を充当して修得済みと認定されているのが32単位、今年度修得したのが24単位、残り68単位。今年のペースを考えると、おそらく1年は留年することになる。
通信制大学の過ごし方
以下はあくまで帝京大学理工学部情報科学科の場合なので、他の通信制大学だとまた違う過ごし方になるはず。
授業形態
まず前提となる授業形態について書いておくと、ざっくり3種類ある。
- メディア授業
- LMS (Learning Management System) と呼ばれるポータルサイトで公開されたビデオ、スライド等の教材を使って学習する。
- テキスト授業
- 市販のテキストを主に使って学習する。 LMS で補助教材が公開される場合もある。
- スクーリング授業
- キャンパスへ実際に足を運び、2〜3日間集中的に対面授業を行い、最後に試験を受験して単位を修得する。
通信制大学をよく知らない人にはスクーリングの存在が意外に思われそうだが、法令により通信制大学の卒業単位のうち30単位はスクーリングが必要となっているらしい。原則的に週末2日間を朝から夜まで集中的に講義を受け、最後に試験を受ける形になる。手軽といえば手軽なのかもしれないが、2日間終日の講義というのはなかなか集中力的に堪えるものがある。
メディア授業とスクーリング授業に関してはご想像される通りだと思う。 LMS で公開される教材の種類は授業によってまちまちなので、以下のように様々な種類の教材を使い分けていくことになる。
- 紙の書籍
- 電子書籍(指定された教科書のほとんどは紙だが、まれに電子で手に入るものもある)
- PDF 化されたスライド資料
- 動画
- LMS 内で閲覧するダイナミックなコンテンツ
単位修得の方法
単位修得には必ず単位修得試験を受ける必要がある。レポートや課題提出だけで単位修得ができるようにはなっていない。そして単位修得試験を受ける条件として、 LMS 上の小テストや課題の提出、レポートの提出などが課されることになっている。
試験は年に4回、I期〜IV期という形で受ける機会がある。このうちI期とIII期、II期とIV期で受けられる科目はそれぞれ同じになっており、1科目につき2回受験機会があるということになる(I期で不合格だった科目をIII期で受けるのはダメだったように思う)。したがって最悪の場合は全科目ガッツリ時間をかけて勉強して、III期とIV期だけ受けるということもできなくはない。逆に負荷を分散して、各期でだいたい同じ数の科目を受けるようにもできる。自分のライフスタイルにある程度あわせてプランニングできるのはありがたい。
勉強方法
勉強は主に平日だと帰宅後の1〜2時間程度と、通勤電車の中での時間を費やしていた。休日は時間を取れるだけ取るという形で、日によっては朝から夜まで費やすこともあった。
iPad Pro 12.9 + Liquid Text + GoodNotes
教材を読んだり見たりするときはだいたい iPad Pro を使っている。 Apple Pencil を使ってザクザク書き込めるし、先に書いた様々な種類の教材をだいたいなんでも扱えるのがいい。
特によく使っているのが Liquid Text で、 PDF やウェブページを取り込んで、自由に書き込みをしたり、要らない部分を見えなくしたり、文章や画像をピックアップして欄外にまとめ直したりできる。なかなか使ってみないと便利さがわからない難しいアプリだけど、資料を読みながら情報を整理して理解をしていくという過程ですごく役に立つ。保存処理がたまに分単位で時間を要するのが欠点。
単なるメモ書きの用途には GoodNotes を使っている。こちらも PDF をインポートできるので、さっくり PDF が見たいだけの場合は GoodNotes を使っていることもある。
Anki
いわゆる暗記カードをデジタルで作って学習できるアプリケーション。カードに LaTeX や HTML 、画像ファイルなどを埋め込める高機能な点が嬉しい。またカードを実際にめくっていく学習モードは 忘却曲線 などを踏まえて実装されていて、覚えが悪いカードは数分後、すでに覚えたと判断したカードは忘れている可能性のある数日後に再出題してくれて、効率的な暗記ができる。
カードはもちろん自作する必要があるので当初は面倒に感じていたが、カードを作る過程で一度勉強して、その後復習としてカードを使った学習ができるのはわりとよかった。 macOS 上で作ったカードデッキを Android へ移して、通勤電車の中でよく Anki していた。
Visual Studio Code + LaTeX
レポートやプログラミング課題の作成環境。詳細は VSCode と TeX で大学のレポートを書く · the world as code で書いた。
Scrapbox
説明が難しいが、すごく簡単に使える Wiki のようなもの。最終的に授業全体で得た知識をまとめておくのに使っている。
東京都立中央図書館
勉強は家でする場合も多いが、特にレポートを書く際に参考資料を漁りたいときは東京都立中央図書館を使っている。
蔵書と閲覧席が極めて多いというのが大きい。特にコンピュータ書が豊富に置かれた図書館というのは知る限りほとんど存在しないので重宝している。本来であれば大学図書館が使えればいいのだが、帝京大学理工学部のキャンパスは宇都宮で、自宅から100km以上離れているため日常利用は難しい。
1年目の所感
単位修得の難しさ
冒頭に「修得できなかった単位数」の話を書いたとおり、単位修得は想定していた以上に難しいものがあった。
大学の単位1単位あたり、学習時間の目安は45時間である。ざっくり卒業に120単位必要なので、年間30単位とすると1350時間。これを1日あたりで割るとだいたい4時間になる。働いている人が確保する時間としてはなかなか厳しいものがある。
おまけにプライベートの学習時間全部を大学に当てられるわけでもない。最新の技術も追いたいし、仕事で未知の技術に触れる機会があったら、どうしてもそちらのキャッチアップが優先になる。仮に試験前の時期であったとしても、仕事より優先するのは難しい。
また暗記力の衰えも感じる。仕事のために新しい技術をインプットする場合、ざっくりとした全体感や概念に関する目録を頭の中に作るようなイメージがあって、細かいことは本やドキュメントを見ればいいので覚えないことが多い。これが結構試験を受ける上でネックになっている。対策としては先の Anki を使ったりして、意識的に暗記をしていくしかない。
授業間の関連性
シラバスなどを見ればわかることではあるが、授業間には関連性がある。ある授業を受けるにあたり、別の授業の履修が前提となっていることがあり、時にそれは暗黙的なこともある。今年度の場合で言えば微分積分2が難しくてなかなか進められなかったのだが、他の授業で微分積分が必要になる場合が少なくなく、「微分積分が出来ていない」ことを理由として修得できない科目が複数出てきてしまった。これも修得単位が少なくなった理由の1つになっている。
孤独感
スクーリングを除けば1人で授業は進める必要があるので、孤独感は強い。寂しいなどという話ではなく、教員や同級生への質問ができないので、わからないことを打破するのが難しい場合がある。
もちろんチャネルがないわけではない。教員とは LMS のメッセージ機能でやり取りができるが、しかしオフィスアワーがあるわけではないので、じっくり質問するようなことはできない。同級生とのやり取りには、大学から提供されている Office 365 内の Teams が使えるのだが、だいぶ過疎気味で積極的な連絡は取りづらい状況にある。
教材と環境構築
これは極一部の授業の話ではあるのだが、1〜2科目ほど Java Applet を題材とした授業があった。既知の通り Applet は Java 11 で廃止済みであり、使うには古い Java をあえてインストールして環境構築する必要がある。そこにどうにも躊躇いが生じ、今年はこれらの授業を断念した。
聞くところによれば Processing への移行が段階的に進んでいるらしく、一時的な問題だとは捉えている。とはいえ、一部このような古い教材が使われていることへの懸念は覚えた。
だいぶネガティブなことも書いてしまったが、1年を通じて「如何に学習を進めるべきか」という指針は立てられたように思う。別に急いで卒業したいわけでもないので、きちんと身につくような学習を2年目も続けていきたい。